松江地方裁判所 昭和54年(行ク)1号 決定
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【判旨】
(一) 相手方は、申立人に対し、昭和五四年一一月一五日付島根県公安委員会指令(防)第一七五号をもつて、申立人の飲食店営業に関し、申立人に風俗営業取締法四条の三、二項一号(一八歳未満の者を客に接する業務に従事させることの禁止)、刑法二〇四条(傷害)の各規定に違反する事実があり、善良の風俗を害する虞があるとして、風俗営業等取締法四条の二、二項により、昭和五四年一一月二二日から同年一二月二六日まで三五日間、申立人の飲食店営業の停止を命ずる処分(以下、本件処分という)をしたこと、申立人は右処分が違法であるとして、その取消の訴(松江地方裁判所昭和五四年(行ウ)第二号)を同裁判所に提起したことが疎明により認められる。
(二) そこで、まず、行政事件訴訟法二五条にいう回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるかどうかを検討する。
疎明によれば、申立人は、昭和五四年七月一八日から松江市東本町の借店舗を求めて女子従業員二、三人を使用して飲食店「パブハウス、ノンノン」を経営しているが、店舗を賃借した際の権利金、店舗の改装費用等にあてるために金融機関から融資を受けた八〇〇万円について、きびしい過怠約款付で毎月一六万円余りを弁済していかなければならないほか、右店舗の賃借料として毎月二二万円、従業員の給料等の支払もしていかなければならないこと、右支払のための資金は、他にみるべき資産、収入等のない申立人としては、右営業による日々の収益の中から捻出しなければならない状態にあることがうかがわれる。
右事実によれば、本件処分による営業の停止期間が三五日間も続くときは、申立人において負債等の支払に窮し廃業に追い込まれるに至るであろうことを推認することができる。又、右期間内に本案判決が確定することはとうてい考えられない。してみれば本件処分により申立人の受ける損害は回復困難であつて、その損害を避けるため本件処分の執行を停止すべき緊急の必要があるものと認められる。
(三) 次に、本件処分の取消を求める本案の申立が理由がない、とみえるかどうかについて検討する。
(1) 疎明によれば、本件処分理由の一つとされた風俗営業等取締法四条の三、二項一号違反の事実は、申立人が前記「パブハウス、ノンノン」の深夜における営業に関し、昭和五四年九月二日から同月二五日までの間、同店において当時一六歳の女性を飲食客の接する業務に従事させたというものであつて、右事実はこれを認めることができ、これが同法四条の二、二項所定の違反行為に該当することは明らかというべきである。
次に、疎明によれば、本件処分理由とされたもう一つの刑法二〇四条違反の事実は、申立人が昭和五四年九月一八日午前零時三〇分ごろ、前記「パブハウス、ノンノン」において、同店の深夜の営業に関し、飲食客の一人に対し暴行を加え治療一週間を要する口内裂創等の傷害を負わせたというものであつて、右傷害の事実は一応これを認めることができる。しかし、右傷害が同店の深夜の営業に関して行われた場合にあたるかどうか、善良の風俗を害する虞があるといいうるかどうか、換言すると右傷害事件をもつて同法四条の二、二項所定の本件処分の理由となしうるかどうかは今後適確な事実認定とともに本案審理において慎重に決する必要があるといえる。
(2) そうしてみると、本件処分は、前記傷害事件を処分理由の一つとしている限度において、その適法性に疑問の余地を残すものというべきであるが、だからといつて、本件処分が全体として違法であるとみるべきではなく、前記認定の風俗営業等取締法違反の事実を処分理由とする限度で申立人が相当期間の営業停止処分を免れないことはいうまでもない。したがつて、右相当期間の限度では、本件処分は本案についいて、理由がないとみえるけれども、それを超える部分については、本案について理由がないとはいいきれない。そして、前記認定の申立人の営業の規模、右風俗営業等取締法違反の期間、態様等を考慮すると右の相当期間は少くとも一〇日間ということができるから、少くとも主文掲記の昭和五四年一二月二日以降の部分に限つて、本案について理由がないとはいえないものと一応判断できるので、本件処分は右の日からその執行を停止するのが相当である。
(福永政彦 鳥越健治 福井一郎)